美術科教育についての徒然なる私見
the personal opinion about the education of fine arts

ここでは,中学校の美術科教育について,
個人的に感じていることや考えていることをまとめています。

―思い立った時にときどき更新―

針金を使って“生け花”をする

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美術科教育の二つの目的

 中学校の美術科教育の活動には大きく二つの目的があると考えられます。簡単に言えば,一つは表現活動や鑑賞活動など,美術の活動に必要な知識や技能を身に付ける目的。もう一つはその活動を通して,感性や情操といった豊かな人間性(心)を育てる目的です。それは「美術の教育」「美術による教育」と言い換えてもいいでしょう。

 この二つの目的は,これまでその優位性について取り上げられることが多く,「画一的な知識や技能の習得を目的にしたのでは一人ひとりの感性や創造力は育たない」という意見や,「表現活動をするためには知識や技能がなければならない」という意見が聞かれます。しかしこの二つはそれぞれが密接に関係しているもので,どちらが優位かとは言えそうにありません。我々が美術科教育を考える時には,常に二つの目的を念頭に置く必要があると思います。

 ちなみに学習指導要領の目標には,美術の教育目的としたといえる,活動を通して「美術の基礎的能力を伸ばす」という文言と,美術による教育を目的にしたといえる「創造活動の喜びを味わう」「美術を愛好する心情を育てる」「感性を豊かにする」「豊かな情操を養う」といった文言がはっきりと示されています。

 ※ 中学校学習指導要領 (美術) 全文

 

美術の活動における健全な人間形成

 個人が持つ「好き・嫌い」「良い・悪い」といった嗜好や判断,あるいは主義・主張といった事柄については,これが正しいという絶対唯一の答えがあるわけではありません。一人ひとりが自分自身の嗜好や判断,主義・主張を持つことはとても大切なことで,とりわけ美術の表現活動においては,それが表現の根底にあるともいえます。

 たくさんの人間が同じ時間や場所を共有している「社会」という集団においては,個人の嗜好や判断,主義・主張のすべてをそのまま表出し,実現すべきではない場面も多々ありますが,美術の表現活動においては,芸術家が社会に対する警鐘や,表現のインパクトのためにあえて過激な活動を行う場合も見られます。

 しかし公的な学校の美術科教育においては,その活動を一般の美術や芸術家のそれと同様に扱うわけにはいきません。集団生活における「遠慮」や「自粛」あるいは「我慢」といった,常識的な考え方や行為ができる人間を育成することは,学校教育の大切な役割です。特に現在の社会が学校教育に暗に求める期待や課題はそこにこそあり,実際の子どもたちを見る時,確かに最優先されるべき目標だと思わざるをえない状況にあります。そしてそれは美術科教育においても同様です。

※ 生徒作品に見られる,問題と思われる表現


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