おくすり千一夜 第二百四十一話
 抗生物質で期待のニューフェース グラム陽性菌に強力な活性
(ネイチャー7091号より

 病原菌は戦後開発された抗生物質に耐性を持つ株を次から次へと発生させてくるため、それに対抗する新しい作用機序の抗生物質が必要となってきました。。とくに、致命的なケースに結びつくブドウ球菌および腸球菌などグラム陽性菌は厄介で、最後の砦とされたバンコマイシンに耐性を示す多剤耐性菌の出現以来、この問題は注目され続けてきました。こうしたなか、米メルク研究所のJ・ワン博士らは、グラム陽性菌に強力な抗菌活性を持つ抗生物質プラテンシマイシンを発見し、これが脂肪酸合成経路中間体に結合することで作用を発揮することを明らかにしました。
 プラテンシマイシンをMedlineで検索してもまだ見つかりませんので、極めて新しい報告と考えられます。(2006年9月中旬現在)
 過去40年間に、新たな作用機序を持っ抗生物質で臨床応用されたのはわずか二つです。抗生物質の大部分は1940年代から50年代にかけて発見されたもので、主に細胞膜、DNA、およびタンパク質の生合成阻害を目的とする物質でした。現行の多くの抗生物質は、上述のどれかの作用機序を有し、ドラッグデザインで構造を少々変えたものです。薬剤耐性は抗生物質が比較的狭い範囲の機序を利用することで成り立っており、今回、グラム陽性菌に抗菌活性を示す新しい作用機序の抗生物質が発見されました。ワン博士らによる今回の報告は、特筆すべきもので、プラテンシマイシンは、ブドウ球菌および腸球菌の多くの薬剤耐性菌にも有効だそうです。
 ワン博士らはまず、薬物産生微生物からの抽出物、25万検体のスクリーニングを実施、次いで細胞遺伝学、生化学、薬理学、構造生物学といった総合的な研究を展開、ついに、脂肪酸合成という、細菌ではあまり注目されない機序を狙って、放線菌ストレプトマイセス・プラテンシス由来の分子を発見しました。
 脂肪酸は細菌表面の”構造素材”で、一度に2炭素原子鎖を伸長する生合成の反復によってつくられます。プラテンシマイシンが標的とするのは、この機構の鍵を握る酵素βーケトアシルACPシンターゼで、これはFabFとしても知られております。
 伸長される脂肪酸はまず、ACPからFabFへ移され、脂肪酸は活性部位アミノ酸を介して酵素の結合したまま、一過性のアシル・酵素中間体となります。炭素原子の延長源は、ACPに付着しているマロニル基で、マロニル・ACP基質にFabFが結合、二酸化炭素を失って反応性二炭素ユニットが生じます。
 ワン博士らは今回、プラテンシマイシンがアシル酵素中間体だけに結合することを解明しましたが、この中間体は短命で観察が困難のため、中間体の類似物質を作り出しました。具体的には活性部位のシステインをグルタミンで置換した、プラテンシマイシンと高い親和性で結合するFabF変異体を合成」しました。そして、プラテンシマイシンと変異体FabF複合体の結晶構造を得ることができました。それはアシル・酵素中間体の形成が活性部位を開放する構造変化を伴っており、マロニル・ACPの付加を遮断する仕方でプラテンシマイシンの結合を可能にすることが明らかになりました。
 プラテンシマイシンはFabFに関してこれまで報告された中では最も強力な阻害物質だそうでう。ワン博士らは、この抗生物質が感染症にかかったマウスモデルで有効なことを証明しました。
 バンコマイシンに耐性菌が現れたニュースを聞いたとき、筆者は大変なショックを受けました。プラテンシマイシンのような新たな作用機序を持った抗生物質が開発されても乱用が続けば忽ち耐性菌が出現するでしょう。大切に使いたいものです。抗菌剤の開発はまさに人類永遠のテーマです。

追補 : バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が12施設の入院患者19人から検出
 2006年9月29日  非常に強力で抗生物質が効かないバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が、京都大と京都府立医大の調査で、計158施設中、7・6%に当たる12施設の入院患者19人から検出されました。病気を発症している者は者はいないそうです。 調査対象になった病院のうち14%で保菌者が確認され、京都市南部の病院は6人が見つかりました。調査班長の一山智(いちやま・さとし)京都大教授は「菌が広がりつつあり、行政や医療機関と連携し、まん延の危険性を食い止めたい」と話しています。 一山教授らは今夏、計158施設から集まった約2500の検体を調べたところ、10の病院と2つの介護施設の計19人から菌が検出されました。昨年は同様の調査で1施設で1人の保菌者だけだったのです。1年間で拡大傾向が顕著になりました。 広がった経路の特定は難しいく、調査中とのこと。 昨年は、京都市の病院で約120人からVREが検出されたのをきっかけに、調査班が府内の状況の調査をしているそうです。
バンコマイシンは耐性が最後まで無かった抗生物質です。

表紙にもどる   次の話題   一つ前の話題    関連する話題   第    話