おくすり 千一夜 第百九十八話
コレステロールは高いほうが長生きする!
筆者は中年からコレステロールが高かったためこの疾患に関心を持ち、これまでコレステロールなんか怖くない!(69話)、コレステロールは高めがいい!(129話)、まだ低い高脂血症境界値!(134話)、高脂血症のリスクとクスリのリスク!(140話)と四つ話題を提供してきました。今回の「コレステロールは高いほうが長生きする」は、筆者がつけた題名ではありません。ある脂質代謝の臨床研究医が自戒をこめた告白の書の題名なのです。
この本を入手した数日後(2003.11.22)、たまたま、筆者に集団検診結果を伝えるつたえるメールがとどきました。内容は「総コレステロール284 中性脂肪128 HDLコレステロール81。以上の結果、治療が必要です。専門医の診察をお勧めします。」というものでした。
実は筆者の長年の主治医は告白・告発の書を書かれた先生で、コレステロール値の推移は充分承知しておられます。改めて結果を申し上げたところ、「血圧も血糖値も正常、HDLも充分高く、これから計算されるLDL値(178)は適当な範囲内にあり、これまで通り「治療の必要なし」というご返事でした。このようなことを堂々と主張される臨床医が今、日本に何人おられるでしょうか!そこで頂いた著書の概要を紹介させて頂きます。
「コレステロールは高いほうが長生きする」富山医薬大教授・浜崎智仁著、エール出版社2003年11月15日発行
はじめに コレステロールというと、生活習慣病の真っ先に出てくる低く抑えたい数字として有名です。低くしたいなら、できるだけその摂取を控えた方がいいということになり、血清中のコレステロール値の高い人は、コレステロールを多く含んでいる食品を制限するよう指導されています。
ところが、日本にはコレステロール摂取を減らした方がよいなどというデータは、今まで存在していないのです。たとえば卵の摂取制限で動脈硬化が予防できるなどというデータは存在しないと考えてよいのです(世界的にも同様です)。
さらに、血清コレステロール値と総死亡との関係について、日本での大規模疫学調査がいくつか発表されるようになり、総死亡率から考えると、血清コレステロール値が低いことは危険因子であることが判明してきました。コレステロールが低いと死にやすいということです。
この本は今までのコレステロール一本槍の考え方、さらにそこから発展するコレステロールの摂取制限に対して、また高コレステロール血症治療薬のエースであるスタチン類につき再考を促すものです。動脈硬化学会が高脂血症(特に高コレステロール血症)について今までに出した二つのガイドラインについても、いくつかの問題点を指摘しました。
この本は結論として、血清コレステロールが260mg/dlまでは決して総死亡率が高くなく、コレステロールが240〜260の人を治療するのは、一番死ににくい人達を治療するという社会医学的に矛盾に満ちたことをしていることを示しています。これを是正するだけで年間二千億円以上の医療費を削減することができるでしょう。
以上が序文の前半です。この本は四部からなり、一部「コレステロールは高いほうが死ににくい」、二部「危ない!高コレステロール血症の食事療法」、三部「コレステロール低下薬スタチン類研究の日本でのお寒い現状」、四部「やっぱり危ない。日本人のコレステロール常識と健康常識」で、通しで十七章から成っています。各章の表題で、特に注目したものに3章「コレステロールの危険性を強調した非科学的データがなぜ一人歩きしたのか」があり、非科学的なデータを検証できなかったのは著者を含む研究者の怠慢と決め付けておられます。
また4章では「コレステロールを減らす食事療法は心筋梗塞を増やすことがある」と、これまでの常識を覆す内容があり、五章では「良いと言われてきたリノール酸の危険性について」説かれています。15章では「高齢者と女性は高コレステロールの治療が不要な理由」が挙げられており、筆者の高コレステロール血症も治療の必要の無いことがよくわかりました。何よりも眼を引いたのは16章{「コレステロールは危険」常識の弊害}日本では長期のコレステロールの二重盲験試験がなぜできないかでした。日本で行なわれた大規模な臨床試験(通称J-LIT)でも薬物を投与しない、あるいはプラセボーを長年飲まされていた対象者が居なかったのです。ですから薬を飲まなかったら、どれほどの死者が出たのか知る由もありません。おそらく薬を飲んだ人達より少なかったでしょう。
本書はこれまで国内外で行なわれてきた臨床試験のデータが全てグラフ化されて豊富に掲載されており、薬理作用や、結果の評価についても解説されているので、一般の方々には啓蒙書であると同時に、医療者にとっても大変参考になる内容です。
さて治療の現状はどうでしょう。2003年12月10日の読売新聞に<高脂血症の予防と治療>「新世紀を生きるー医療ルネッサンス仙台フォーラム」の詳細が掲載されておりました。講演で脂質代謝の第一人者、元・防衛医大教授中村治夫先生は「動脈硬化学会は高脂血症の診断基準を総コレステロール220以上、悪玉(LDL)コレステロール140以上、善玉(HDL)コレステロール40未満、中性脂肪150以上としており、さらに糖尿病や高血圧、喫煙など動脈硬化を進行させる危険因子を持っている場合には、治療の目標値はもっと低く設定される」と述べておられます。この基準を適応すると、40歳以上の日本人の三・四割は高脂血症と診断される!そうです。
筆者のように総コレステロールが280を越す場合ならともかく、220〜260の値の人たちが死亡率が最も低いと言う大規模臨床試験(J-LIT)結果が、最近我が国で出ているにも拘わらず、相変わらずこのような診断基準がまかり通っているのは摩訶不思議と言わざるをえません。
人間の体は本来大変複雑な酵素反応の塊です。例えば油症と乾燥肌の人の定量的生理機能を違いを述べた報告を筆者は知りません。このような多次元の現象を、単純な物差し(数値)で線を引き、健常人と病人に区別することは誤りであると、常識人なら誰もが考えるのに、なぜこのような診断基準が相変わらずまかり通るのでしょう。これには科学の仮面を被った営利と言う魔物が学会に乗り移っており、その仕業と考えざるをえません。年間に何千億円という医薬品費が、治療の必要のない人達を患者に仕立て上げることで、浪費されているのです。 これでは近頃はやりの「おれおれ詐欺」や「振り込め詐欺」を笑えません。
追補1 : 2005年2月20日の読売新聞に「コレステロール やや高めが長生き? 脳卒中など少なく低死亡率」と言う記事が掲載されておりました。大阪府守口市で1997年度に健康診断を受けた住民約16,000人を五年間にわたって調べたところ、男性の場合、コレステロールの高い人の方が死亡率が低く、男女合わせると、糖尿病の患者や喫煙者は、そうでない人に比べ死亡率が高いが、高コレステロール血症の人はかえって死亡率が小さかったそうです。福井市や大阪八尾市でも同様な調査があるそうです。現在の基準は米国の結果そのもですが、東海大の大櫛先生は全国の健康診断受診者約70万人のデータから健康的な集団の95%の人が収まる範囲の上限値を算出し、「中高年の場合、男性は260台、女性では280台とすることが妥当」で逆に若い年代では「低めが望ましい」と述べておられます。
コレステロールの基準値に疑問が投げかけられて5年。この間に抗高脂血症薬を呑み続けた健常者は、国内の疫学調査に無関心な学会と企業に、医療費の返還を求めるべきかも知れません。
追補2 : また一つ変化がありました。良いことです。(2007年2月4日)
コレステロール:判断基準、変更へ 「悪玉」に標的絞る----学会が指針 日本動脈硬化学会は、心筋梗塞(こうそく)など動脈硬化性疾患の予防や治療の指標から従来の「総コレステロール」をはずし、代わりに「悪玉コレステロール」といわれるLDLコレステロールなどを判断基準とする新しい診療ガイドラインを策定いたしました。拘束力はありませんが、多くの医療現場は対応が迫られそうです。3日、福岡市で開かれた同学会理事会で承認されました。 狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの病気を招く「高脂血症」の診断基準には、一般的に総コレステロールが使われてきました。同学会が02年に策定したガイドラインでも、血液1デシリットルあたり220ミリグラム以上を「高コレステロール血症」とし、心筋梗塞などを防ぐには220ミリグラム未満に抑えるよう求めてきました。 しかし、「高コレステロール」の中でも、「善玉」のHDLコレステロールが多い場合にはLDLコレステロールは通常より低く、動脈硬化につながりにくく、日本人はこうしたケースが多いので、総コレステロールを基準にすると、必要量以上の投薬が行われるなどの問題が分かってきたのです(少々遅すぎましたが)。このため、「誤解の元」となる総コレステロールを基準から外し、高コレステロール血症は「LDLコレステロール140ミリグラム以上」といたしました。 策定の中心となった同学会動脈硬化診療・疫学委員長の寺本民生・帝京大教授(代謝学)は「日本人のデータに基づき見直しを行った。他の学会にも呼びかけ、基準の統一を図っていきたい」と話しています。(コレステロール値が問題視されて十年近い年月が過ぎてしまいました。抗高脂血症薬を売りつくした企業の薄笑いが聞こえてきそうです!恐らく2兆円位は売れたのではないでしょうか!)
表紙にもどる 次の話題 一つ前の話題 関連する話題 第六十九話 コレステロールなんか怖くない! 第百二十九話 コレステロールは高目がいい! 第百三十四話 まだ低い高脂血症境界値! 第百四十話 高脂血症のリスクとクスリのリスク