おくすり千一夜 第百九十七話
高血圧症の非薬物療法とは?
血圧と薬に関する話は、これまで第百四十九話、百五十四話、および百八十一話で解説してきました。
しかし、生活習慣病の一つと言われる高血圧の病態内容については述べませんでしたので、今回は血圧のイロハと薬を使わない治療法(非薬物療法)について解説してみたいと思います。中高年の集まりがあると、決まって話題になるのは、生活習慣病の話、特に目立つのは抗圧薬を常用している人達の多いことです。「ブル-タス お前もか」で日本人の4人に1人、約3000万人が高血圧症ですから、驚きです。自覚症状も無いのに、これだけ大勢の方が病気にされてしまうのですから、検査値とは誠に恐ろしいものです。血圧は加齢と共に血管が硬くなって血の巡りが悪くなり、これを補うために心臓の働きが強まる結果、高血圧になると巷では考えられています。塩分を多く取る地方では、高血圧の患者が多いとよく言われます。一方、老人ホームで治療費が丸められ一剤しか投与されなくなったら、呆け症状が回復してきたという話も耳にしました。そこで、高血圧にはどんなタイプがあるのか調べて見ました。
高血圧症の分類 : 高血圧は綿密に調べると、食塩摂取には関係なく血圧が一定で正常血圧を保っている「健常者」と、食塩に関係なく血圧の高い「食塩非感受性高血圧」すなわち「本態性高血圧患者」と、塩分の摂取量に比例して血圧の高くなる「食塩感受性高血圧患者」の三群に区分されます。本態性高血圧とは本来、病気の本態が不明な高血圧症のことで、一酸化窒素(NO)の活性低下等が問題視され、ようやくそのメカニズムが一部解明されかけてきたところです。食塩感受性高血圧は、単一の因子による独立した疾患というよりも、いくつかの因子が関与した結果と考えられています。また特定の遺伝子と関連があり、遺伝的に決定される可能性も出てきました。
高血圧で起こる病気 : 高血圧が続くと、脳では脳卒中、心臓では心筋梗塞、腎臓では腎不全や腎硬化症を発症しやすくなります。腎障害は糖尿病でも発症しますが、高血圧が糖尿病性腎症の進行を促進し、高血圧を治療すると腎症の進展を遅延させるそうです。また本態性高血圧の遺伝的素因を有する人は、高血圧や、糖尿病性腎症も発症しやすいと言われています。
知っておきたい薬の副作用 : 昔から使われている「利尿薬」は、穏やかに効き、骨折も防ぎますが、糖尿病が増え、カリウム欠乏を起しやすいと言われます。「βブロッカー」は心不全にも有効で突然死を防ぎますが、脈拍が減り過ぎたり、高脂血症になったりします。「レニン・アンジオテンシン系阻害薬」は臓器を保護する作用があり、糖尿病や動脈硬化を防ぎますが、咳が出やすくなります。
「カルシウムブロッカー」は動脈硬化や呆けも防ぐと言われていますが、血圧が急に下がり過ぎることがあるから危険です。
高血圧の非薬物療法
薬を使わない高血圧・非薬物療法は、拡張期圧が90〜95mmHg以下の患者で試してみるべき治療法の一つです。勿論それ以下の値なら、なお結構でしょう。患者さんが自分の病気の管理に積極的に取り組めば、それなりの効果があります。
体重の減量、食塩やアルコール摂取の制限は薬による治療効果を高め、さらに、毎日1時間程歩く等の規則的な運動(等張性運動)は、血圧の正常化に働くと思われます。喫煙は高血圧になる直接因子ではありませんが、悪性高血圧症の発症頻度を上げ、冠動脈性心疾患の主要な危険因子です。ですから高血圧症と診断された患者さんは、例外なく禁煙すべきです。
お茶やコーヒーに含まれるカフェインも血圧を上げ、血漿ノルアドレナリン濃度を上昇させますが長期間摂取していると、耐性が生じ、発症とは無関係のようです。カルシウム(Ca2+)を含む食品を多く摂取すると、血圧が下がると言われます。機序は不明ですが、副甲状腺ホルモン分泌の抑制と関連しているように思われます。 しかし、疫学調査の結果、Ca2+の補充で血圧が下がることは観察されません。Ca2+で降圧が見られる患者さんがいても、同じ特性をお持ちの患者さんを確認する簡便な方法が現在ありません。ですから、Ca2+の補充療法は推奨できません。
その1:体重の減量
肥満と高血圧とは関連があります。肥満の程度と高血圧症の頻度との間に正の相関がみられます。肥満の高血圧患者さんは、食塩摂取量の変更とは無関係に、減量で血圧が低下します。肥満が高血圧の原因となる機序は不明ですが、肥満者に見られるインスリン分泌亢進が、腎尿細管のインスリン依存性Na+再吸収を高め、細胞外液量を増加すると考えられます。肥満は交感神経系活動の亢進を伴いますが、減量で元に戻ります。減量した体重を維持することは一般に困難です。有酸素運動とバランスの取れた栄養の摂取が患者さんのコンプライアンスを高めるでしょう。
その2:食塩の制限
食塩感受性高血圧症の患者さんには減塩が勧められており、米国ではいくつかの疫学的研究の結果、摂取量を1日6g以下とすることを勧めています。米国での平均食塩摂取量が1日約9gですから、それほど大きな減塩ではありませんが、それで効果があるそうです。日本ではこの点で一致した見解がなく、正常人の平均の食塩摂取量は12g以上であり、一応の目安として7g以下が指標とされています。その効果は余り顕著なものではなく、本当に減塩が高血圧患者の治療に有用であるかは目下疑問視されています。
しかし、食分の多い食事と高血圧症の高い発症頻度とは明らかに相関関係がみられます。食塩を厳しく制限すると、入院した大部分の高血圧患者で血圧の低下が認められます。これは有効な抗高血圧薬が開発される以前に提唱された治療法でした。ただ、厳しい食事制限は、コンプライアンスの観点から実用的ではありません。食塩摂取量を1日に約5g程度(2gNa+)に制限すると、平均して収縮期圧は12mmHg 拡張期圧は6mmHg 低下することが分かっています。初めの血圧が高いほど、その低下は大きく現れます。年齢が40を越えた患者さんですと、中等度食塩制限でよく反応します。しかし、すべての高血圧患者が食塩制限に反応するわけではありません。この治療法は無害なので、軽症の高血圧患者さんの治療法として試みてよいものです。食塩制限は、ある種の抗高血圧薬の効果を高めます。
その3:アルコールの摂取制限
アルコール類を飲むと、血圧が上昇します。しかし、血圧上昇が現れるアルコール量が如何ほどか明確ではありません。アルコールの大量摂取は脳血管事故の危険を増加しますが、冠動脈性心疾患の危険を上げることはありません。事実少量のアルコール摂取は冠動脈性心疾患の発症を防ぐことが見出されています。アルコールによる血圧上昇の機序も明らかではありません。血管平滑筋内へのCa2+輸送増加と関係があるようです。過度のアルコール摂取は抗高血圧症治療に対する患者のコンプライアンスを低下させる場合があります。高血圧の患者さんには、アルコール摂取は1日30ml、日本酒なら2合を超えないように指導することが望まれます。
その4:運 動
身体活動を増やすと、心血管疾患の発症頻度は減少します。この効果が運動の抗高血圧作用によるものかどうかは明らかになっていません。運動不足は高血圧症の高発症率と関連があるようです。一定した血圧変化が常に観察されるわけではありませんが、規則的な等張性運動は収縮期および拡張期血圧をおおよそ10mmHg
低下させることを証明した臨床研究があります。運動が血圧を下げる機序は明確ではありませんが、血行行動および体液因子に幾つかの変化が報告されています。規則的な等張性運動は血液量を減少し、血漿カテコールアミン量を下げ、心房性ナトリウム排泄因子の血漿濃度を増加させます。好ましい運動の効果は、訓練期間中に体重や食塩摂取量が不変の場合でも観察されます。
その5:神経緊張緩和療法とバイオフィードバック療法
動物に長期間ストレスを負荷すると、持続する高血圧を発症します。これは精神の緊張緩和が血圧を下げる可能性のあることを意味します。同様な結果を示した研究もありますが、一般に精神緊張緩和療法の血圧に与える影響は一定せず、そう大きなものでもありません。また、患者さんに、この療法に動機付けしを強くしなければならないこともあり、長期的効果を証明することは困難です。軽症の患者さんには試みることをすすめるべきで、その際は患者の追跡調査を怠らず、必要があれば他の治療法に切り替えるべきです。
カリウム療法
高血圧症患者では、体内Na+量と血圧とは正の相関が、体内K+とは血圧との間には負の相関があります。さらにK+の食餌摂取量、血漿濃度および尿中排泄量が低下していることが、様々な高血圧症患者集団で知られています。K+の摂取量を増すと、Na+の尿中排泄増加、レニン分泌抑制および細動脈拡張(恐らく、Na+、K+-ATPアーゼ活性を刺激して細胞内のCa2+濃度を下げることで)と、内因性血管収縮物質への反応性の低下という機序によって血圧低下を起してくるかもしれません。高血圧ラットにK+を補充すると、血圧は低下し、また、血圧の変化と無関係に卒中の発現頻度が減少します。軽度高血圧患者には1日38mmol のK+を経口的に補充すると、収縮期および拡張期両者の血圧が低下します。K+の補充は心室性期外収縮および卒中を予防するかも知れません。これらの成績によると、非薬物療法で高K+性食餌とNa+の適度な制限を課するのは適切と思われます。しかし、高K+食餌はアンギオテンシン転換酵素阻害剤を服用している患者には勧められません。
さて、世の中の大勢はどうでしょう。繰り返しになりますが、高血圧の正常と異常の境界値に目を向けて見ましょう。1998年の国民栄養調査の結果によりますと、成人の15〜20%、1800 万人が高血圧患者だそうです。上が 140〜160、あるいは下が 90〜95 の境界値の成人も 20〜25%、2500 万人おり、合計すると 4300 万人の大人が治療の対象になるそうです。4300 万人と言えば日本の大人の二人に一人は高血圧ということになります。
ところが、WHOと国際高血圧学会は1999年に境界値を更に下げて 130/85mmHg 未満としました。生活習慣を変えてもなお血圧が160/95 以上ある場合に血圧降下剤を使用するというのがこれまでの治療基準でした。この基準変更で更に 3000 万人以上が降圧剤を必要とするようになるのです。これでは大人は降圧剤を飲むのが当たり前で、飲まなくて良いのは低血圧の患者だけと言うことになりそうです。年齢に%をつけたものが、その世代の高血圧患者さんの割合だという表現も出てきました。
NPOビジランスセンターが出している「薬のチェックは命のチェック」の第三号に、高血圧治療の六原則が記載されております。紹介しますと・・・・
1.「血圧が高い」方は、まず測り方に注意( a. 家で測る b. 深呼吸して測る c. ストレスのない状態で測る )
2.それでも高ければ、まず生活習慣の改善を( a. ストレスの解消を b. 肥満にならないように
c. 適度な運動を d. 塩分は控えめに e. アルコールはほどほどに f. タバコは止める
g. 食べ過ぎに注意 )
3.若年でも血圧が高くなってきたら ( 先ず生活習慣の改善。それでも 160/95
以上なら血圧降下剤を使用 )
4.高齢者の血圧は、あまり下げない(下げると呆ける)
5.使うなら利尿剤、ベータブロッカー、ACE阻害剤の順
6.薬を使ったら、下がり過ぎ、副作用に注意・・・・というものです。
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