おくすり千一夜 第百八十一話
 
国・内外で異なる臨床試験の論調


 「Cheap pills are better for your blood pressure」! 暮にカナダを旅行していて、ホテルで見た新聞の一面に、こんな記事がありました。「血圧を下げるには、安いお薬で十分!」と言うのですから、思わず引き込まれてしまいます。解説は、オタワ在住の科学記者 ANNE MclLROY氏 です。
 先ずはその内容を紹介しましょう。ここで「pills」と言っているのは利尿剤の意味で、カナダでは医療費は全額国庫負担というお国柄を知っていると、我が国との新聞論調の違いが理解できます。
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 1960年以来使われてきた利尿剤は、高血圧を治療し、心筋梗塞を予防する効果があり、その後開発された百倍も高い新薬より優れていることが、今回、大規模臨床試験で分かりました。この結果、医療費が年間数千万(カナダ)ドル節約でき、四人に一人の割で、より良い治療が受けられると、オタワ大・心研・高血圧専攻の Frans Leenen 博士は述べています。博士はまた「これは医療にとって重大な意味をもつもの」と記者会見の席上で述べました。
 降圧薬に関する延べ八年にわたるこの臨床研究は、史上最大規模のものです。高血圧に伴って発症する主なものは心臓発作と脳卒中です。治験に参加した40,000人余の患者の内、カナダ人は900人で、一部の患者は「a water pill」として知られている利尿剤を服用する伝統的治療を受けました。このコストは一日たった数セント(10円以下)、他の患者が服用した薬剤はもっと高価で、CaブロッカーやACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害剤を服用すると一日1〜2 ドルもかかるのです。患者は平均5年間観察対象となり、薬価が低い利尿剤で、より優れた効果のあることが分かりました。
 Leenen博士は、これからの治療では、医師は処方に際して、先ず利尿剤を投与するかどうか検討すべきだと述べています。現在、他の薬を処方されている患者さんは、高いお薬を飲まされていたことを知ってもパニックにならず落ち着いて、何故治療に利尿剤を使わないのか主治医に尋ねるべきです。利尿剤にも副作用があってアレルギーになったり、痛風のような痛みが出ることもあるからです。
 α-ブロッカー1)と呼ばれる第三の薬の場合は、もっと厳しく質問して良いでしょう。後で分かったことですが、治験でこの薬を服用した入院患者の多くが、治験から脱落してしまい、その数は、利尿薬を服用した患者の二倍にも達しました。
 1960年代から高血圧症には利尿剤が投与されてきました。Leenen博士によると、1980年代初めから、より高価で作用の異なる新薬が処方されるようになりました。これら新薬は利尿剤と異なり、いずれも血管を拡張させるものです。目下、カナダでは高血圧患者のわずか20乃至30%に、塩分を排泄し、尿量を増す利尿剤が投与されているだけです。厳密な意味では利尿剤は血圧を下げるかどうか分かっていませんが、塩分の除去作用は基本的に極めて重要です。コーヒーやお茶に利尿効果はありますが、血圧は下げません。利尿剤はもっと強力なのです。
 商品名ノルバスク(Norvasc)と言う Caブロッカーを開発したファイザー製薬は、利尿剤が他剤より優れているという治験結果に疑問を投げかけています。ファイザー・カナダの代表ドン・サントン氏は、ノルバスクは多くの点で利尿剤に匹敵する効果をもっていると述べています。しかしLeenen博士は利尿剤は心筋梗塞を予防する点ではノルバスクや他剤より優れていると主張しています。
 ファイザー・カナダはこの治験に要した1億2,500万ドル(米)の内、4,000万ドルを負担をしております。しかし、治験結果を左右するようなことはしないでしょう。サントン氏はカナダで、ノルバスクの販売でどれだけ利益を上げたか、また治験の結果、売上高がどれだけ落ちるかについても語らないでしょう。治験の結果、患者の2/3は今後利尿剤を併用をするだろうと、彼は指摘しています。
 Leenen博士は、現在、高血圧の患者の多くは複数の薬剤を併用しており、もし利尿剤を併用するならば、医療費の節約になると指摘しています。
 カナダ人は目下、医師に支払う額以上に、薬に沢山のお金を使っています。1980年に13億ドルだったのに、急激に膨張し、昨年は123億ドルに達しました。
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 この記事を読んだ時点では、筆者は「ALLHAT」臨床試験を知りませんでした。帰国して検索したら、12月24日に日刊薬業に 「ファイザー製薬 降圧薬大規模試験「ALLHAT」の結果報告」 とあり、1月8日の薬事日報に 「ファイザー製薬 ALLHAT記者説明会 利尿薬の有用性を再確認 Ca拮抗剤との併用も示唆」 との見出しがありました。また「ALLHATの情報 住友がネット(http://allhat.jp)で提供」 とありましたので、これらの読後感を述べてみたいと思います。 以下の内容は我が国での代表的な解説の要点です。
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 2002年12月17日米国ワシントンD.C.において、大規模臨床試験 ・・ALLHAT(The Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial)・・ の結果が発表されました。この試験ではCa拮抗剤アムロジピンとACE阻害剤リシノプリルの効果が利尿剤クロルタリドンと比較されました。結果をみると、アムロジピン群で心不全がクロルタリドン群より多かったが、他では有意差は有りませんでした。一方リシノプリル群ではクロルタリドン群に比べ、脳卒中、狭心症、心不全が有意に高頻度でした。この結果利尿剤の有用性がCa拮抗剤やACE阻害剤に劣るものでないことが証明されました。(α-ブロッカーは中断と言う説明は見当たりません!)
 「有用性が同等ならコストの低いものを」という論拠で、利尿薬を第一選択薬として優先的に使用すべきだとの主張もありますが、日本人に直ちに適応すべきかどうかは、今後の問題であり、そのためには利尿薬についての日本人のエビデンス構築が必要です。さらに、高血圧治療の個別化が重視される中で再び一律的なアプローチを推奨することの妥当性には議論の余地が有ります。今回の治験で、利尿薬は少量であれば、極めて副作用が少なく、心血管イベントを強力に抑制することが示されたのは事実です。我が国では利尿薬の使用頻度が激減していことから、今後は少量の利尿薬の投与が推奨されるべきであり、少なくとも併用薬の一つとして利尿薬を用いるべきでありましょう。(この辺が極めて日本的なところ!)
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 以上がこの治験に関する論調です。利尿薬が使われなくなったのは、効かないからではなく、薬価が極めて低いことが原因のように筆者には思われてなりません。我が国では薬価に纏わる経済効果を論じたコメントは一つも見出せませんでした。いみじくも大製薬企業のないカナダというお国柄を知るアクシデントでした。いま高血圧症で複数のお薬をお飲みの読者がおられましたら、利尿剤が含まれているかどうかの確認が必要です。

 注:1)このα-ブロッカーは商品名ドキサゾシで、原著によると2000年2月までの4年間の累積でうっ血性心不全がクロルタリドンにくらべ、高率(8.1% vs 4.5%)に発生し、心臓血管系疾患のリスクが25%も増加することが明らかになったため、治験から脱落したとありました!。
 註:1)に対するある読者からの投書(2004.10.19)がありました。
 上記の文章ですが、ALLHATの患者背景はハイリスクの高齢者高血圧症患者です。CHF(鬱血性心不全)の標準治療薬は言うまでも無く利尿薬です。そもそもα1ブロッカーと利尿薬でCHFの発症率を比較すること自体無意味なことです。ドキサゾシンが悪いのではなくこれは試験デザイン上仕方のないことで、当たり前の結果が出たまでのことです。CHFの治療にα1ブロッカーを使う循環器の医者は流石にいないでしょう。特にこの試験の患者背景はBMIも高く、9割がアングロサクソンだったと記憶しております。人種的に考えてもCHFの患者がかなりの割合で含まれていたはずです。

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