おくすり千一夜 第百四十話

  高脂血症のリスクと、クスリのリスク

 このほど日本動脈硬化学会は、これまで総コレステロール220mg/dl以上を高コレステロール血症と定義し、治療の目安にしてきましたが、臨床試験J-LITの結果を踏まえ、これを240mg/dl に改正することになりました。この結果、高脂血症患者の半分は生活習慣病のレッテルがとれて健常人に復帰できました。
 筆者も十年ほどプラバスタチンを服用してきましたが、260mg/dl前後の値を30mg程度下げる治療努力は誰のためだったのだろうと、改めて考えさせられました。
 プラバスタチン発売時の講演会で記憶に残っていることは、この薬物は脳血液関門を殆ど通過しないということでした。 他の薬剤は、比活性は高いが、親油性の強いことから何か重篤な副作用の発現する危険性が当時から予測されておりました。案の定、昨今プラバスタチンの強力なライバル薬セリバスタチンに関する副作用とその対策の経緯が報道されました。開発企業と厚生労働省とのやり取りをちょっと調べてみました。
 八月十六日、厚生労働省医薬局安全対策課は外国で回収が進んでいるセリバスタチンについて安全対策の実施を求める通知を開発企業に送付しました。
 セリバスタチンは他剤との併用もしくは単独高用量投与で横紋筋融解症などの重篤な副作用の報告数が増加しており、外国では八月八日販売中止を発表、自主的な回収が進んでいます。
 八月十七日、安全対策企画官は、「全世界で回収しているのに、日本だけ販売を継続するなら、供給企業はユーザーに対する説明責任がある。供給企業は個別の問い合わせに対しては答えていたようだが、記者会見や文書の提供など体系だった情報提供はなかった。指導通知があるかないかを別にしても本来、当然やるべきことだ。国内では確かに問題となっている併用薬はないし、海外と比較して低用量で、死亡例もない。そのため、科学的根拠をもった回収はできない。しかし、患者の安全を考えれば、倫理的・道義的に回収という判断があってもいいと供給企業に”英断”を求めたが受け入れられなかった。」と指導通知までの経緯を説明し、セリバスタチンの副作用発現率が他のスタチン系製剤より高いことが明らかになれば、「少なくとも第一選択薬としての使用は回避してもらう必要があるだろう」と指摘しました。
 これに対し供給企業は「早ければ十七日から説明文書を配布する」と発表。
 八月二十三日、供給企業は「セルバスタチン製剤(セルタ、バイコール)を自主的に販売中止し、市場から回収する」と発表。
 これに対し安全対策企画官は「諸外国で回収が進んでいて日本だけ販売されている状況を企業の自主判断で解消できたことは好ましい」とコメント。
 厚生省としてもセリバスタチンに関する国内外のデータを分析した上で何らかの対応策を講じる考えを示しました。
 今回の迅速な一連の措置を、筆者は高く評価したいと思います。サリドマイド事件と違って、一人の犠牲者も出さなかったことは誠に幸いです。
 それにしても比活性という一面的な優劣を錦の御旗にして、より強力な効果のみを追い求めてきた研究開発の姿勢に対しては、もっと多面的で、安全性に基礎を置いた開発理念を持って頂きたいものです。

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